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「ある天使の思い出に」

 30代前半のT君に「クラシック音楽でいちばん何が好きですか」と聞かれた。いろんな意味で苛立つ愚問だ。クラシック音楽って何だ。なぜそれに限定する等々。いつもなら無視するか説教するところだが、T君は普段それなりに面白い人なので、試しにしばらく考えてみた。そして「アルバン・ベルクのヴァイオリンコンチェルトかな」と答えた。

 この答えは、自分でもとても意外だった。「ある天使の思い出に」という献辞でも知られている曲である。新ウィーン楽派の作曲家であるアルバン・ベルクの作品は、現代音楽の一種とみなされている。枕詞に「分かりにくい」「つまらない」と付いたアレだ。しかし虚心に聞けば、ベルクが書きたかったのは、人気のモーツァルトやブラームスが書きたかったことと同じだろうと思う。

 というか、偉大な先人達が書き表そうにも書き表せなかった、微妙なところを書き表す新しい音楽言語を、ついに生み出した例だ。ただ、新しい言語は、従来の言語でしか音楽を聞き取れない人にとっては、ノイズでしかない。といっても音楽の聞き方は、自然言語や人工言語のように他人から教われるものでもない。

 たぶん、過去の言語体系を更新するように、新しい言語にひたすら耳を済ませる経験が必要になるのだろう。その過程で、聞こえてくると言うよりも、耳に詰まったゴミが取れるというか、耳が脱皮するというか、そういう経験を経る必要があるのかもしれない。なお、曲の説明がWikipediaに掲載されている。

 YouTube には、いくつかの演奏がアップされている。日本人女性ヴァイオリニストの諏訪内晶子さんがソロ、オケの指揮はピエール・ブーレーズというやつが、再生回数が一番多いわけではないが、自分のいちばんの好みだ。特にオケの響き、ブーレーズのコントロールが素晴らしいと思う。(↓は2楽章の前半)

※ブーレーズ指揮の動画が削除されてしまったので、諏訪内さんのヴァイオリン優先で、アシュケナージ指揮のものを。(09.09.09)

 「ある天使の思い出に」のCDでは、シノーポリ指揮、ソリストが渡辺玲子さんの演奏が、いちばん好みだ。日本人女性ヴァイオリニストが、この曲で活躍する理由は何か。難曲だからテクニックが優れている日本人が有利という点もあろうが、2人の演奏よりもテクニックが前面に出たものもある。しかし、彼女たちには及ばない。何か、感受性の問題のような気がする。

 で、この曲がなぜ好きかという理由は、当然だがよくわからない(だからこの愚問には答えたくない)。好きなものは好きということになるから難しい。ただ、別にクラシック音楽とか、そういうものにとらわれなければ、クラシックの古典作品の側にも、バルトークのような20世紀初頭の音楽の側にも、戦後の前衛音楽の側にも、クラシック以外の音楽の側にも通ずるというか、開かれているところがあり、何かさまざまな音楽のエッセンスが入っているような気がするので、「いちばん」にしたのではないかと思う。私にとってのゼロ地点ということか。我ながら、変なゼロ地点の音楽だ

12歳の自分と2009年

11、12歳ぐらいまでにあなたが好きだったものにこだわれ、ということです。その延長線上にあるものと今やってる仕事がフィットするとかなりいい所に行くだろうと言えます。
(「お前らの作品は所詮コピーだ」――富野由悠季さん、プロ論を語る)

こんなふうに、今大活躍している人たちには、10~12歳のころに取り組んでいたことが、
その後の人生に大きく作用したことが珍しくないのです。
キミも今という時間を最大限に活用しましょう!
(12歳の文学賞とは?――小学館)

小学校5年生のときに書いた作文が、「市長賞」を獲得した。例年は、当然のことながら6年生の作品から選ばれ、ときどきは気分を変えたように低学年の無邪気な作品が選ばれていたから、異例と言われた。鉛筆やノートをたくさんもらった。お、元手が掛からずにこれだけモノがもらえるのは面白いと思った。

さて、ここで振り返るべきなのは「11、12歳ぐらいまでにあなたが好きだったもの」ということだが、もし文章を書くことが好きだったのであれば、今そういう機会が多い仕事に就いているということもできる。しかし「かなりいい所」に行っているという自覚はない。やはり才能がなかったのだろう。

ただ、本当に「文章を書くことが好き」だったのかと言われれば、そう思ったことはないし、最近は嫌だと思うことの方が多い。少なくとも、仕事でなければ、よく考えたり推敲したりすることはない。文章が下手な人と思われて結構、早く書くことから離れて、海でも見に行きたいと思う。

正直、「市長賞」の作文の思い出とは、それを「布団で寝転がって」書いたということに尽きる。それを大人が、自分の意図と離れたところで絶賛した。自分では、布団に仰向けになったりうつぶせになったりして書いたことが、最も重要だと思っている。

ということは、もし僕が「かなりいい所」に行きたければ、寝転がってできる仕事を探さなければならない。

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