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乗り遅れ2

大学のとき、O君が酒を飲みながら話してくれたことだが。O君があるレコード会社にオーディションに行って、ひとしきり演奏した後、ディレクターからこう言われたという。「あのね、君がどういうつもりで、そういうことやってるのか知らないけど、僕はね、名曲を聴きたいんだよ名曲を」。O君は即座に「そいつは“Over the Rainbow”みたいな曲のことですかい?」と答えたそうだ。

僕は爆笑したが、彼のそのときの、笑っていない目が忘れられない。今思えば、O君はきっと、僕のように「アウシュビッツの後では、もう綺麗な歌を歌い上げることなどできない」などと、斜に構えたことは思っていなかった、と最近気づく。O君は本当は、いつか彼の“Over the Rainbow”を書きたいと思っていたに違いない。気づくのが遅かった。

O君はまた、ときどき「思い出はいいよ、思い出に浸るのは。なにしろ安上がりだ」と笑っていたが、僕には笑えなかった。昨日のことさえ思い出すのが苦痛なのに(それは今でも変わっていない)。でも、最近、O君の「何しろ安上がり」というところは、なんとなく共感できるようになってきた。今に「思い出はいいよね」ということになるかもしれない。20年の乗り遅れだ。

乗り遅れ

僕はいつでも乗り遅れる。高校のとき、毎朝いっしょの電車で通学していた女の子が、けっこう可愛かったということに気づいたのは、卒業後だった。そういえば、何人もの他の学校の男が手紙を渡していた。「お前、彼氏か?」と聞かれて「いや」と言ったこともあった。

中学1年のとき、班で回覧日記をしていた。Kちゃん(その子も思い出してみれば美人だった)が日記に「不思議だなー、イエローマジックオーケストラって。」と書いていた。僕はそのとき、YMOの魅力に気づかなかったから、Kちゃんからその話をされたときも、気のない返事をしていた。YMOをいいなあと思って聞くようになったのは、「テクノデリック」から。せいぜい、その前の「BGM」や(坂本龍一の)「B2-UNIT」から。別に恥ずかしいと思わないのは、いまでも「ライディーン」より「PURE JAM」や「Riot In Lagos」の方が好きだから。

村上春樹がノーベル賞を取ったなら、不明を恥じなければならないかもしれない。大学の同級生が村上春樹の大ファンで、僕はその人ととても仲が良く、いつもいっしょにいたが、村上春樹が大嫌いだった。友人の手前、「3部作」の文庫を何度か読んだが、読後の本は、いつも駅のゴミ箱行きだった。その当時の駅には、でかいカゴのゴミ箱があった。

ただ、村上春樹の「もし僕らのことばがウィスキーであったなら」と「意味がなければスイングはない」は、いまでは愛読している。・・・なんてことでは免罪されないか。

総合誌が瀕死の状態だというので

「文藝春秋」「中央公論」「Voice」などを買い集めて読んでみる(最新号、バックナンバー)。意外と面白かった、というのが正直な感想だ。ああいう文章がネットにあれば、中にはすごく感心して読んで、ブックマークしたものがいくつもあったと思う。

原稿料を得て、書くことを生業としている人が書く文章というのは、それなりに説得力がある。いわゆるプロの書き手だ。また、それなりの力を持った編集者が関わっていることも侮れない。ウェブ上にあるものだけがコンテンツとばかり考えていると、現実の一部(あるいは重要な大部分)を見落とすことになる。

ネットの匿名性というのは、あるものに対してツッコミ(肯定的にしろ否定的にしろ)を入れるのには適している。しかし、元のコンテンツを書くのは、ネットであろうと紙であろうと人間の書き手であって、いまはまともな書き手は、まだ紙に残っているということだ。

ネットは、まさに「書けば書ける」環境を作ったが、それによって文字の世界が豊かになった部分と、まだ未開拓の部分があることを考えなければならない。ウェブの課題は、お金の流れを作るということか(それとも無料、匿名を突き詰めた先に別のものがあるのか)。ただ、たぶん広告モデルではないような気がする。また「読む力」の変化も考慮に入れないといけないかも。

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